み 


 俺がその神様とやらに会ったのは去年の夏。

 緑の葉っぱで色付いた、梅の木の下だった。


 約三カ月ぶりに、俺は連絡の途絶えた幼馴染に再会した。

 幼馴染といっても、隣の家に住んでいる生まれたときから幼小中高と学校とクラスが一緒なだけの、ただの知人だ。周りからはいつでもどこでも一緒の仲好しコンビと認識されているが、そんなことはない、断じてない。食事とか風呂とかは別だ。

 だから、俺にとってこいつは、一日に一回くらいには会う程度に仲の良かった、幼馴染。だけど突然ぱったりと、俺の前から姿を消した薄情者。一緒に花見をするの、楽しそうにしてたくせに。

 そんな俺の気持など知らないかのように(実際知らないんだろうけど)裏のない、無駄に元気ないつもの笑顔で、開口一番にこう言った。

「そーちゃんおっひさー!! 全然会いにきてくれなかったから顔忘れそうだっよー!」

 いい笑顔だ。無駄に良い笑顔で、ひどい言いがかりをつけられた気がする。

 会いに行くも何も俺はお前の居場所なんて知らないし、教えずにどっか行ったのはお前だろう。なんて、尽きそうにない文句が浮かんでは浮かんで、浮かんでも、なんとか必要最低限の言葉だけを選別する。

「突然いなくなったのはそっちだろ、柚井子! お前の居場所、お前の家族さえ知らなかったんだぞ!」

「あーそーいえばそうだったねー。ごめん。まあでもこっちも突然だったんだよ、突然神様になっちゃって、連絡とかできなかったんだよ。ほんとごめん」

 …………。

 どうしたんだろう、柚井子、唐突に人外語を喋って。ああ、言い間違えたのか。柚井子は相変わらずドジだ。

「お前、髪に様をつけるのはさすがにどうかと思うぞ」

 そもそもどうやったら髪になれるのだろう。

「なーに言ってるのさそーちゃん。さすがのゆいも髪に様をつけるなんてことはしないさ。ゆいが様をつけたのはご神体とかの神だよ」

「……なんて?」

「ゆいはこの梅の木の神様になったんだよ。三か月前」



 三カ月ぶりに再会した幼馴染は、梅の木の下で、神様になっていた。




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